Paulingのミステリー分子
『Pauling's mystery molecule』は、化学マニアの間では良く知られている分子の一つでしょう。佐藤健太郎さんの著書「有機化学美術館へようこそ」にも、最後のコラムに採り上げられています。この分子は、20世紀の天才Linus Carl Paulingが氏のオフィスの黒板に書き残した意図不明の分子で、Heptazine骨格にアジド基と2つのヒドロキシル基が結合しています。
ACSのC&ENで、2000年に「この分子の意味するところは何か?」という懸賞が企画されました。その結果については今更なので書きませんが、私の第一感をここに書き残しておきたいと思います。
私の着想はこちら↓
熱もしくは光でナイトレンが生成するところをきっかけに、端からぐるりと解けていって、最後にシアノナイトレンが1分子生成する、というもの。ほんとかいな。
ちなみに、シアノナイトレンは実在の比較的短寿命な分子で、二酸化炭素とよく似た直線型、C-N結合長は1.231~1.232Åであると実験的に求められています(*)。これの電子配置は二酸化炭素ではなく酸素分子に酷似していて(ルイス構造式を描いてみたり、分子軌道を組んでみるとわかります)、三重項が最も安定です。一番エネルギーの高いSOMOはこんな感じ↓
いくつかの理論モデルで構造最適化をしてみました(MOPAC以外は基底関数をaug-cc-pVDZで統一)。PM6(OpenMOPAC)はかなり長め、MP2(WinGAMESS)はやや短め、HF,DFT(PC GAMESS)ではHFとB3LYPがちょっと長め、PBE0やO3LYPが良い一致を見せています。
| 結合長(Å) | |
| exp. | 1.232(*1) 1.230 944±0.000 014(*2) |
| U-PM6 | 1.2464 |
| U-HF | 1.2339 |
| U-MP2 | 1.2268 |
| U-B3LYP | 1.2340 |
| U-PBE0 | 1.2322 |
| U-O3LYP | 1.2322 |
ref.
*1 Herzberg, G.; Travis, D. N. Can. J. Phys. 1964, 42, 1658.
*2 Beaton, S. A.; Ito, Y.; Brown, J. M. J. Mol. Spectrosc. 1996, 178, 99.