変な錯体シリーズ(3)
GAMESSで構造最適化した錯体を載せるのは3回目です。もう、シリーズ化して良いだろうということで、タイトルも(3)とかにしてみました。
さて、今回のネタはFe(CO)3(1,4-butadiene)です。鉄カルボニル錯体がジエンの保護基として利用できるのは、遷移金属屋さんなら誰でもご存知のことかもしれません。では、ジエンとの結合とはどうなっているのかを知っている人はどれくらいいるのでしょう?
最適化は2段階で行いました。ますHF/TZVで大まかに最適化(TZVなんぞ使ったために、大まかといいながら時間はかかる。3-21にしておけばよかった…)。そして、B3LYP/6311dLAN(6-311(d)とLANL2DZ)で精密最適化しました。え?鉄原子はTZからDZにレベルが下がってるじゃないかって?そんなヤボな突っ込みは勘弁してください。相対論効果を取り込みたくてやった、今は反省している。
ちなみに、精密最適化でちゃんとカルボニル基がまっすぐになったりと効果は出てまして、これはおそらく分極関数(d)の効果だと思います。
構造はこちら(Chemscape Chime)↓
構造的な特色として、ジエンの中央側についている水素原子が、やや内側に曲がっているところが面白いですね。これは鉄のd軌道と炭素のp軌道の重なりをよくするために、少しsp3ライクな構造をとっていると考えられます。フェロセンも精密に見ていくと同じように水素原子が内巻きになってるそうです。
気になる鉄とジエンの結合ですが、bond order tableからそこだけ抽出してみるとこんな感じです。
Fe1-C6/Fe1-C9(鉄-ジエン端側炭素) : 0.583
Fe1-C5/Fe1-C10(鉄-ジエン中央側炭素) : 0.353
C5-C6/C9-C10(ジエン二重結合) : 1.202
C5-C10(ジエン単結合) : 1.295
立体構造からも明らかですが、鉄とジエンの末端側の炭素原子との結合が強く、中央側の炭素原子との結合が弱くなっています。そして、その結果、炭素間の結合はジエン単独の場合から大きく変化し、中心の単結合の二重結合性が、本来二重結合のはずのところより大きくなっています。有機化学者にわかりやすいイメージとしては、ジエンと鉄が[4+1]環化付加したような構造に近いということができます。で、ただ環化付加しただけでなく、新たに出来た二重結合も鉄に配位しているような。ん、またわかりにくくなってきた…
紙の上では知っている遷移金属錯体の構造を「知ったかぶり」で終わらないためにも、これからもちょくちょくこうやって気になる錯体の計算をしていきたいと思います。